札幌地方裁判所 平成3年(ワ)1312号 判決 1993年10月08日
原告
佐々木徳雄
同
宮澤キノエ
同
石神久男
右原告ら訴訟代理人弁護士
髙﨑良一
同
片岡清三
被告
千歳市
右代表者市長
東川孝
右指定代理人
宮城金助
外三名
被告
菊池精四郎
右被告ら訴訟代理人弁護士
斎藤祐三
主文
一 被告千歳市は、別紙物件目録(五)記載の土地についてされた札幌法務局恵庭出張所昭和五四年九月二五日受付第二〇五六一号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
二 被告菊池精四郎は、別紙物件目録(五)記載の土地についてされた札幌法務局恵庭出張所昭和六二年一一月二日受付第一四二四一号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
三 原告宮澤キノエのその余の請求並びに原告佐々木徳雄及び原告石神久男の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告宮澤キノエに生じた費用の四分の二と被告千歳市に生じた費用の五分の一とにつき原告宮澤キノエの負担とし、原告宮澤キノエに生じた費用の四分の一と被告千歳市に生じた費用の五分の一とにつき被告千歳市の負担とし、原告宮澤キノエに生じた費用の四分の一と被告菊池精四郎に生じた費用につき被告菊池精四郎の負担とし、原告佐々木徳雄に生じた費用と被告千歳市に生じた費用の五分の一につき同原告の負担とし、原告石神久男に生じた費用と被告千歳市に生じた費用の五分の二につき同原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一被告千歳市は、
1 別紙物件目録(一)記載の土地(本件(一)の土地)についてされた札幌法務局恵庭出張所昭和五一年三月一六日受付第四四〇七号所有権移転登記の
2 別紙物件目録(二)記載の土地(本件(二)の土地)についてされた札幌法務局恵庭出張所昭和五三年一〇月二六日受付第二一五三四号の所有権移転登記の
3 別紙物件目録(三)及び(四)記載の土地(本件(三)、(四)の土地)についてされた札幌法務局恵庭出張所昭和五一年一月九日受付第二四九号の所有権移転登記の
各抹消登記手続をせよ。
4 主文一項と同旨
二主文二項と同旨
三(一の4の予備的請求)
被告千歳市は、原告宮澤キノエに対し、金一三五五万円及びこれに対する昭和五三年三月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告らにおいて、別紙物件目録(一)ないし(五)記載の土地(本件各土地)につき原告らから都市計画法四〇条二項に基づく所有権帰属を原因に各所有権移転登記を受けた被告千歳市、さらに別紙物件目録(五)記載の土地(本件(五)の土地)につき被告千歳市から売買を原因に所有権移転登記を受けた被告菊池に対し所有権に基づいて右各所有権移転登記の抹消を求めるものである。なお、原告宮澤は、本件(五)の土地に関し予備的に詐欺を理由とする不法行為に基づく損害賠償を請求している。
一争いのない事実
1 本件(一)の土地について
原告佐々木の所有していた右土地につき、同原告が昭和五〇年七月右土地を含む所有地を「北信濃団地」として宅地造成するため都市計画法二九条の規定による開発行為の許可申請手続をするにあたり、同原告と被告千歳市は、同年七月九日、右土地を遊水池の用に供し同被告が管理すべきものとして同原告から同被告に対し無償提供する旨の同法三二条に基づく協議を成立させ、同年八月八日石狩支庁長からされた開発許可に基づく開発行為により右土地に遊水池が設置された後、開発工事完了公告がされ、右協議に基づき同原告から同被告に対し右土地が無償提供され、昭和五一年二月一〇日、同法四〇条二項に基づく請求一項1の登記がされた。
右土地に設置された遊水池は、昭和五六年八月三一日ころまでされた千歳市公共下水道事業により、下水道による雨水処理工事が完了したため同被告が昭和五八年ころまでに埋め戻し用途廃止となり、現況は更地化し普通財産として管理されている。
2 本件(二)及び(五)の土地について
原告宮澤が所有していた右各土地につき、同原告を含む七名が昭和五三年三月右各土地を含む各所有地を「富士四丁目ニュータウン」として宅地造成するため同原告を含む七名の代表事業主原美文が都市計画法二九条の規定による開発行為の許可申請手続をするにあたり、同人と被告千歳市は、昭和五三年三月一七日、本件(二)の土地を遊水池の用に供し、本件(五)の土地(本件(五)の土地の用途は後記認定のとおり。)と併せ、いずれも、同被告が管理すべきものとして、同原告から同被告に対し無償提供する旨の同法三二条に基づく協議を成立させ、同月三〇日石狩支庁長からされた開発許可に基づく開発行為により右(二)の土地に遊水地が設置された後、開発工事完了公告がされ、右協議に基づき同年六月一六日同原告の本件(二)及び(五)の土地についての所有権移転登記承諾書が提出され同被告に対し各無償提供がなされ、同年一〇月一七日、同法四〇条二項に基づく請求一項2、4の各登記がされた。
本件(二)の土地に設置された遊水池は、昭和六〇年一月三〇日ころまでされた千歳市公共下水道事業により、下水道による雨水処理工事が完了したため同被告が昭和六一年ころまでに埋め戻し用途廃止となり、現況は更地化し普通財産として管理されている。
本件(五)の土地は開発行為当時から更地であったが、同被告は、昭和六二年一一月二日、被告菊池に右土地を売却し、同日の売買を原因として請求二項の登記がなされた。
3 本件(三)及び(四)の土地について
原告石神が所有していた右各土地につき、同原告が右土地を含む所有地を「希望ケ丘団地」として宅地造成するため都市計画法二九条の規定による開発行為の許可申請手続をする(<書証番号略>)にあたり、同原告と被告千歳市は、昭和五〇年四月二八日、右土地を遊水池の用に供し、同被告が管理すべきものとして、同原告から同被告に対し無償提供する旨の同法三二条の協議(<書証番号略>)を成立させ、同年五月八日石狩支庁長からされた開発許可(<書証番号略>)に基づく開発行為により遊水池が設置された後、開発工事完了公告がされ、右協議に基づき同原告から同被告に対し無償提供され、同年一〇月九日、同法四〇条二項に基づく請求一項3の登記がされた。
右土地には現在なお遊水池の施設が存在している。
二争点
1 被告千歳市は、本件各土地が都市計画法四〇条二項に定める「開発行為により設置された公共施設の用に供する土地」に該当するものとして同条により所有権を取得したか。
(一) 本件(一)ないし(四)の土地について
(被告千歳市の主張)
右各土地に設置された遊水池は、都市計画法四条一三項、同法施行令一条の二で定められた公共施設である「下水道」に該当する。
すなわち、遊水池は、開発区域内における下水道が完備するまでの一時的、暫定的な雨水貯留施設であり、下水道に代替する機能を有する排水施設であるから、下水道施設であり、「下水道」に該当する。したがって、本件(一)ないし(四)の土地は、下水道である遊水池の用に供する土地であるので公共施設の用に供する土地である。
(原告らの主張)
遊水池は、「水路」でもなければ「消防の用に供する貯水施設」でもないので、本件(一)ないし(四)の土地は公共施設の用に供する土地ではない。
(二) 本件(五)の土地について
(被告らの主張)
右土地は、都市計画法四条一三項、同法施行令一条の二に定められた公共施設である「広場」の用途に供する土地である。
信濃小学校の運動広場等に用途変更することは、将来の計画として考慮していたにすぎない。
(原告宮澤の主張)
公共施設としての「広場」は、特定の利用目的をもたず、かつ、不特定多数の住民が利用すべきものとして法は予定していると考えられるところ、右土地は、当初信濃小学校の運動広場等の用地に活用すべく検討していたというのであるから、右土地は公共施設の用に供する土地ではない。
2 被告菊池は、(五)の土地の所有権を時効取得したか。
被告千歳市は、昭和五三年一〇月一七日、都市計画法四〇条二項により所有権を取得したと信じて右土地の占有を開始し、当時、右土地の所有権が自己にあると信じるについて同被告に過失はなかった。
被告菊池は、昭和六二年一一月二日、被告千歳市から右土地を買い受け、前記時点から一〇年を経過した昭和六三年一〇月一七日時点において、右土地を占有していた。同被告は原告宮澤に対し平成四年一月三〇日の本件口頭弁論期日において、この時効を援用する旨の意思表示をした。
3 組合契約の成立について
(被告らの主張)
原告宮澤を含む七名は、本件(二)及び(五)の土地を含む地域の開発許可申請を共同して申請したものであり、開発行為によって旧地番と新地番の土地所有者及び地積等が著しく異なることや開発行為の代表事業主を定めたこと等からして、開発行為という共同事業を営むことに合意したというほかなく、組合契約又は組合類似の契約が成立したということができ、したがって、各申請者が出資した費用及び土地は組合財産になるので、本件(二)及び(五)の土地も組合財産であり申請者全員の共有財産であるから、原告宮澤は共有持分の主張しかできず単独所有の主張は理由がない。
4 千歳市の詐欺による不法行為の成否(予備的請求について)
(原告宮澤の主張)
被告千歳市は、本件(五)の土地につき、原告宮澤に対し、法律上公共施設を具体的に特定しなければならないのに単に公共施設用地として指定したうえ、右土地を一般的な公共用地として同被告に無償提供しなければ同原告の開発工事完了届けを進達しないと指導して同原告を欺き、同原告は、これにより、同被告の右指導に従わなければ開発行為の許可が北海道から得られない旨誤信して無償提供する旨の意思表示をしたものである。
同原告は、平成四年一〇月一日の本件口頭弁論期日において、右意思表示を取り消す旨の意思表示をした。
右取消は、善意の第三者である被告菊池に対抗できないので、同原告は本件土地の時価相当額一三五五万相当の損害を受けた。
5 本件各土地の被告千歳市の所有権取得は、錯誤により無効になるか。
(原告らの主張)
原告らは、本件各土地がいずれも公共施設としての遊水池の用に供されるものとして被告千歳市に無償提供する協定を締結したところ、本件各土地はいずれも遊水池として使用されていないから、右協定は原告らの錯誤により無効である。
また、原告らは、①公共施設の施設内容によっては自ら管理できること、②公共施設の管理がその用に供する土地の所有権の行方を決する重大な協議事項であること、③当該公共施設の管理者を被告千歳市と定めても場合によっては自らの所有のままであってもよいこと、④公共施設の管理者及び所有権について協議が整わなくても北海道から開発許可が得られる場合があること、以上のことを知っていれば本件(一)ないし(四)の土地を同被告に無償提供することはなかったのであり、本件(一)ないし(四)の土地に設置する遊水池の管理者を同被告とし右各土地を同被告に無償提供する旨の各協議は、原告らの錯誤により無効であり、また右協議に基づく無償提供申出も無効である。
本件(一)及び(二)の土地を含む地域については、原告佐々木及び原告宮澤が開発行為許可申請を行う時点において公共下水道計画が策定されており、近い将来雨水処理のための下水道工事が完了し、いずれ遊水池施設は不要になるものであった。原告佐々木及び原告宮澤は、本件(一)及び(二)の土地が近い将来遊水池の用に供する必要性を失うという事情を知らず、これを無償提供しなければ開発許可が得られないと誤信したため、同被告の指導のまま本件(一)及び(二)の土地を無償で提供することに合意したのであるが、右事実を知っていれば、右意思表示をすることはなかったものであり、右意思表示は錯誤により無効である。
公共施設の用に供する土地の地方公共団体への所有権帰属は、あくまでも当該土地の所有者と地方公共団体との協議の成立を要件としており、この協議が整わなければ、地方公共団体に所有権が移転することはない。すなわち、所有権の帰属のためには、同法三二条の協議において単に地方公共団体に管理を行わせるという合意だけでなく土地所有者が地方公共団体に対する所有権移転について承諾することが必要である。従って、同法三二条の協議の成立に錯誤があった場合、右協議が無効となり、それに伴い本件各土地の所有権帰属も無効になる。
法は公共施設用地としての私有地を地方公共団体に当然に帰属させることを予定しておらず、また、場合によっては管理者と所有者が異なることを予想している。このことは、開発行為申請において遊水池用地として指定を受けながら被告千歳市に所有権を帰属させず当該土地所有者の所有のままとなっている土地があることからも明らかである。
(被告らの主張)
都市計画法四〇条二項は、管理権と所有権の帰属主体が異なった場合に生じる公物管理上の支障を避けるため、各帰属主体を同一主体とすべく公共施設等の管理権者に対し法律上当然に所有権を帰属させるという趣旨に基づいて定められたものであり、法的には一種の原始取得の性格を有するから、錯誤に関する問題は生じない。
国または国以外のものが法律上当然に権利者となる場合の文言としては「帰属する」「帰属するものとする」との表現が用いられる。「帰属する」「帰属するものとする」との文言は、前所有者が所有権を移転させるための効果意思を有したか否か等の主観的要件を考慮せず、意思表示の瑕疵も承継させないで法律上当然に所有権を取得させることであるから、一般に新所有者の所有権取得は原始取得であると解される。
土地区画整理法における換地処分に基づく土地所有権取得が原始取得とされる等公法の規定に基づいて所有権帰属と定められた場合は、私法上の承継取得と異なって原始取得とされる例が多く、同法四〇条二項に定める「帰属するものとする」という文言は、法律上当然の所有権取得であり、原始取得と解すべきである。
「帰属するものとする。」との法律効果は、知事の公告によって生じるものであるが、公告をした行為者の意思に基づかず、法律によって生じた効果であるから、この所有権取得を承継取得とみる余地はない。
仮に、所有権帰属が協議の成立による所有権取得であっても、協議が有効に成立しており錯誤は存しない。
第三争点に対する判断
一本件各土地は公共施設の用に供する土地であったか。
1 本件(一)ないし(四)の土地について
前記争いのない事実によれば、本件(一)ないし(四)の土地は、開発行為によって設置された遊水池の用に供する土地であるが、さらに証拠(本件(一)の土地につき、<書証番号略>、本件(二)の土地につき<書証番号略>、本件(三)及び(四)の土地につき<書証番号略>)によれば、本件各開発行為の申請にかかる区域の雨水は、排水管を通ってその管末にある遊水池に貯溜されるものであり、さらに(一)、(三)及び(四)の土地においては遊水池から下水道本管に接続される配管を通って下水道本管に排水されるものと認められる。
ところで、都市計画法四条一四項及び同法施行令一条の二に定める公共施設とは、「道路、公園」「下水道、緑地、広場、河川、運河、水路、消防の用に供する貯水施設」であり、同法四〇条二項の所有権帰属という効果から考えてこれらは限定列挙と解されるところ、同令に定める「下水道」とは、「下水を処理するために設けられる排水管、排水渠その他の排水施設、これに接続して下水を処理するために設けられる処理施設又はこれらの施設を補完するために設けられるポンプその他の施設の総体」を指すものと解すべきであり(下水道法二条二号参照)、遊水池は、公共用水域に排出する排水管が完備されない場合に、これによって処理できない雨水・融雪水を集める池を設けることによって雨水等を処理することを目的としているものであって、前記認定事実に照らせば、雨水等を一時的、暫定的に貯溜し、地下に浸透させることで処理する施設であるとともに、遊水池によってはさらに遊水池から貯溜した雨水等を下水道本管に排出する施設であるとみることができる。
したがって、遊水池は、下水である雨水等を処理するために設けられた排水管に接続した処理施設の一つであり、また場合によっては下水の排水施設の一つであるということができる。
以上によれば、本件(一)、(三)及び(四)の土地に設置された遊水池は、下水の処理施設であるとともに下水の排水施設であり、本件(二)の土地に設置された遊水池は、下水の処理施設であるということができ、いずれにせよ、本件(一)ないし(四)の土地に設置された遊水池は前記「下水道」に該当するということができる。
2 本件(五)の土地について
前記争いのない事実及び証拠(<書証番号略>)によれば、原告宮澤が所有していた右土地は、開発行為実施前は沢地状の低地であったが、同原告を含む七名が右土地を含む各所有地を「富士四丁目ニュータウン」として宅地造成するため同原告ら七名の代表事業主原美文において昭和五三年三月開発行為の許可申請手続をするにあたり、同人と被告千歳市との間で特に具体的な目的を定めないものの公共施設用地として同被告が管理することとし、同原告から同被告に対し無償提供する旨の協議が締結されたものであって、昭和五三年三月三〇日石狩支庁長から受けた開発許可に基づく開発行為により右土地につき盛土・整地の造成工事がされたうえ、工事を完了した公共施設として「公共施設用地」という届けがされた後、右協議に基づく同原告の所有権移転登記の承諾書が作成され、同年一〇月一七日、同法四〇条二項に基づいて請求一項4の所有権移転登記がされたものである。同被告は、昭和六〇年一二月、同原告に対し感謝状を贈呈し、その後暫く右土地を利用する計画がなく、昭和六二年に至り右土地を売却してその処分した財源を持って信濃小学校用地の取得を行うこととし、昭和六二年七月二三日、同原告に対し右土地を売却してその財源で信濃小学校用地を取得する計画でいることを説明し、同原告の了解を得たうえ、昭和六二年一〇月二九日、一般競争入札の方法で右土地の売り払い処分を行い、被告菊池が落札し、昭和六二年一一月二日、被告菊池に売却したことが認められる。
右認定事実及び弁論の全趣旨からすると、本件(五)の土地は、公共施設用地という名目で同原告から被告千歳市に所有権が帰属されたものであり、同原告を含む七名の代表事業主原美文と同被告との協議において具体的公共施設が定まっておらず、また、同被告においても、将来、何らかの公共施設ないし都市施設を設置するという目的を有するのみで、都市計画法四条一四項及び同法施行令一条の二に定める公共施設として具体的に用いる計画がなく、実際にも、開発行為によって具体的な公共施設が設置されていないことが明らかであるところ、同条に定める公共施設は、前記説示のとおり限定列挙であり、また、同条の文理上、開発行為によって当該公共施設が設置されたことを要するから、具体的用途を定めず単に公共施設用地とするだけでは同条に該当せず、都市計画法四〇条二項により地方公共団体に所有権を帰属させることができないというべきである。
被告らは、右土地が「広場」の用に供する土地に該当すると主張するが、前記認定のように、右土地は、将来、何らかの公共施設ないし都市施設を設置する目的のために、「公共施設用地」という名目で取得されたことが明らかであり、また、証拠上、公共施設完了届出書及び公共施設の工事完了検査願のいずれにも工事をした公共施設として「広場」という記載がないし(<書証番号略>)、開発区域内における住民の小規模な集会や行事・催事の開催場所、災害時の一時非難場所として使われることが予定されていたり、運動遊戯場所や冬期間における貯雪場所に使われたりという事情も認められないのであって、利用状況をみても広場と認めることはできない。
したがって、本件(五)の土地は都市計画法四条一四項及び同法施行令一条の二に定める開発行為によって設置された公共の用に供する土地であると認めることはできないから、都市計画法四〇条二項により本件(五)の土地が被告千歳市に帰属したものとは認めることはできない。
二本件(五)の土地について被告菊池の取得時効が成立するか。
以上の認定事実及び証拠(<書証番号略>)によれば、被告千歳市は、都市計画法四〇条二項により所有権を取得したものと信じて本件(五)の土地の管理を引き継ぎ、昭和五三年一〇月一七日に右土地を占有していたと認めることができるが、前記説示のように右土地は開発行為によって設置された公共施設の用に供する土地とはいかず、そして同条による所有権取得の要件は法律上明文で規定されていることであるから、地方公共団体である同被告が同条によって所有権を取得したとして右土地を自己の所有であると信じることについて過失があることは明らかである。
したがって、被告菊池に取得時効は成立しない。
三組合契約の成立によって原告宮澤単独で本件(五)の土地の所有権抹消登記請求ができないか。
数人で開発許可申請を共同して行う場合、組合契約が結ばれるかどうか疑義があるところであるが、仮に組合契約が締結されて申請者各自が出資した財産が組合財産として共有財産になるとしても、共同所有者の一人からその土地の登記名義を有している者に対する登記抹消請求は保存行為として単独でできるものであるから、原告宮澤も単独で本件登記抹消登記手続を請求できるものであって、この点の被告らの主張は主張自体失当である。
四本件(一)ないし(四)土地についての被告千歳市の所有権取得は、原告らの錯誤により無効になるか。
都市計画法四〇条二項は管理権と所有権の帰属主体が異なった場合に生じる公物管理上の支障を避けるため、各帰属主体を同一主体とすべく公共施設等の管理権者に対し、法律上当然に所有権を帰属させるという趣旨に基づいて定められたものであり、法的には一種の原始取得の性格を有するものと解されるから、錯誤に関する問題が生じる余地はない。
これに対し、原告らは、都市計画法四〇条二項による所有権取得の前提として、同法三二条の協議があり、右協議では、公共施設の管理の方法等とは別に所有権の帰属についてもその協議対象とされるから、場合によっては管理者と所有者が異なることを当然に予想しており、実際にもその実例がある旨主張するが、同法の規定上、右についての協議の成立が開発許可の要件とはなっていないうえ、右協議が整わずして開発許可がされ、公共施設が設置された場合にも、同法四〇条二項による所有権取得の効果が発生すると解されるから、このことは、逆に、同法四〇条二項には錯誤規定の適用の余地がないことを裏付けるものとなるといわざるをえない。
また、原告らは、同法四〇条二項の所有権移転登記手続に当該土地所有者の登記承諾書の添付が必要とされることから法律上の当然の所有権取得でないと主張するが、右は、不動産登記法上、登記申請が確定判決正本等による場合を除き原則として登記権利者・登記義務者の双方申請によることが要請されることから、この要請を形式的に充足させるために生じることであって、法律上当然の所有権取得を否定することにはならない。
さらに、原告らは、法四〇条二項の帰属規定に従わない土地所有者に対し同法が強制的な所有権移転登記手続を規定していないことを指摘する。しかしながら、所有権の帰属が定まっていれば、地方公共団体は通常の民事訴訟手続により強制的に所有権移転登記を請求できるのであって、同法が強制的な所有権移転登記手続を規定していないからといって、合意に基づく移転であることを肯定することはできない。
以上により、都市計画法四〇条二項の所有権帰属が錯誤により無効となることはないので、原告らに錯誤があったか否かについて判断するまでもなく原告らの錯誤無効の主張は認められない。
第四結論
以上のとおり、本件請求は、原告宮澤の本件(五)の土地に関する請求の限度において理由がある。
(裁判長裁判官若林諒 裁判官吉村典晃 裁判官河合芳光)
別紙物件目録
(一) 所在 千歳市北光三丁目
地番 六九五番九九
地目 雑種地
地積 七九七平方メートル
(二) 所在 千歳市富士四丁目
地番 七六九番九
地目 雑種地
地積 九七二平方メートル
(三) 所在 千歳市自由ケ丘二丁目
地番 七九八番二八
地目 雑種地
地積 三六九平方メートル
(四) 所在 千歳市自由ケ丘二丁目
地番 七九八番二九
地目 雑種地
地積 四〇六平方メートル
(五) 所在 千歳市富士四丁目
地番 七六九番八七
地目 宅地
地積 447.44平方メートル